講師研修実況中継記録
当S&Sセミナーでは教師研修を重視しています。教え方次第で授業効率、定着効果には2倍、3倍の差がでます。
以下は「教師研修」実況中継の記録です。これは私の知る限り全く新しい試みだと思います。
(1)研修目的 「教師のしゃべりすぎ矯正研修」
(2) 〃 「授業を生徒の回路を探りながら質問中心に進めること」
(3) 〃 「これだけという極限までのしぼりこみを行って生徒の負担を最小にすること」
(4) 〃 「イメージ化(右脳的処理)を授業の柱において生徒への定着度を飛躍的に高めること」
(5) 〃 「教師ではなく生徒の回路を重視した授業を行い、生徒の回路へ授業内容がかみ合うようにすること」
(6) 〃 「教師ではなく生徒を問題解決主体とする問答法の手法の修得」
(1)研修目的 「教師のしゃべりすぎ矯正研修」
(教師研修実況中継)「生徒主体の問答法授業」
A;新人教師 B;生徒役教師 C;研修指導員
中一英語、3人称単数の練習問題
①Bob and Mancy (like,likes)apples.
A;「じゃ答は」
B;「わかりません」
A;「どこがわからないの」
B;「………」
A;ボブとナンシーで複数ですからlikeですね」
C;「先生はB君が主語が複数であることを見落としたからlikeが選択できなかったと考えたわけですね。でもB君は主語が3人称単数の時の動詞の変化を忘れているのかもしれません。あるいはB君は主語にわからない単語があるのかもしれませんね。」
A;「では文法規則の確認からやればよいのでしょうか?」
C;「規則はしっているかもしれませんね。忘れているにしてもどの部分を忘れているかによって説明の重点がかわってきますよね。」
B;「じゃーどのように解説すべきなのでしょうか?」
C;「どこでつまづいているかは最終的には生徒だけが知っているわけです。ですから生徒がどこでつまづいているかを質問によってききだせばいいわけです。
ただし「どこがわからないの」という質向は余りよくありません。教師が具体的問いを発して生徒の状況(回路)をさぐるべきです。英語の文法問題でつまづいた場合、最初の問いは「日本語に訳して」です。どういう意味かわからなければ各種の解説は意味を持ちません。生徒の日本語訳の様子から不明な単語があるのか、主語、述語のイメージはどの程度あるかという重要な情報を探ることができます。」
A;「もう一度やってみます。和訳してみて。」
B;「ボブとナンシーはりんごが好きです。」
A;「じゃ答えは?」
C;「それはまずいでしょう。和訳ができて答えがでないということは文法の規則があいまいである可能性が高いわけですから、ここで規則の確認にはいるべきでしょう。」
A;「主語が3人称単数の時は動詞の語尾にーs、又はesがつきますね。」
C;「その子がどこでつまずいているかをさぐりあてて解説の焦点を意識して説明するべきです。そんな一般的説明をくり返すだけなら参考書を読むのと変わりはなく教師のいる意味がありません。」
A;「どのように質問すればよいのでしょうか。」
C;「生徒に質問の役割がわかるように生徒の問題意識に沿って、しかも系統的に問いを発するべきです。生徒はlikeとlikesのどちらだろうと考えているわけですから,その意識に沿ってlikesのように動詞の終わりにーsがつくのはどういう場合かと聞けばよいのは」
A;「動詞の語尾にーs、ーesをつけるのはどういう場合?」
B;「主語が3人称、単数の時」
A;「いいですね。じゃーこの場合の主語は3人称単数になっていますか?」
B;「・・・・・」
C;「質問で誤りの原因をさぐる時、二つ以上の質問をしてはいけません。必ず一つずつです。生徒が答えられない場合、その原因が二つのうちどちらかしぼり切れないからです。3人称と単数は別の概念ですよね」
A;「B君、じゃーもう一度ね。主語は?」
B;「ボブとナンシー」
A;「これは何人称?」
B;「・・・・・・」
A;「3人称ですよね。」
C;「まずいですよね。人称でつまずいているのがわけですから1人称、2人称、3人称の区別を全体的に短時間で確認する必要があるでしょう。文法のまとめをここで開くかせて目で確認させるべきですね。」
A;「1人称はIとWEで・・・」
C;「先生がおしゃべりする必要はないですね。生徒は文法規則を一回は学んでおり、今またみているわけですからその内容を消化しているかどうか質問すればいいわけです。先生が説明したんでは消化できたかどうかわかりませんよね。」
A;「じゃーB君、1人称って何?」
B;「I、We私、私達」
A;「いいね。2人称は?」
B;「youとyouあなた、あなた達」
A;「3人称は?」
B;「その他」
A;「じゃ主語のボブとナンシーはナンシーは何人称?」
C;「いいんですけどね、規則を覚える際は一気に一定のまとまったイメージをつくった方が定着がいいんですよね、この場合であれば1人称、2人称、3人称バラバラに質問したわけですから最後に本人にまとめていわせた方が鮮明なイメージができますよね」
A;「じゃB君、1人称、2人称、3人称について自分で全部説明してみて」
B;「えーと。1人称は・・・・」(正解)
A;「いいですね。じゃ主語のボブとナンシーは何人称?」
B;「3人称」
A;「単数?複数?」
B「複数」
C;「そこで正解でもパッとしない。正解でも原則として理由をきく方がよいと思います。ある文法範囲を練習していると理由は説明できなくても答の選び方に慣れることがあるのです。」
A;「何故複数ってわかるの?」
B;「2人だから」
A;「いいね。2人以上、2つ以上は複数で1つは単数っていんでったね。」
C;「ここで本人は一応の理解をしたのでやや部分に拡散した内容を鮮明に教師がまとめて答に結びつけるべきですね」
A;「動詞の語尾にーS、ーesをつけるのは主語が3人称でしかも単数の時だったね。どちらかではなく、3人称と単数という2つの条件がそろった時にーS、ーesがつくんだったね。じゃB君この文の主語は何人称?」
B;「3人称」
A;「単数?複数?」
B;「複数」
A;「じゃlike?likes?」
B;「like」
A;「何故likesはダメなの」
B;「主語が3人称複数だから」
C;「いいですね。これでこの問題は終了です。とにかく原則として先生はおしゃべりをせず生徒にきくこと。先生が説明しても生徒がどの部分を理解し、どの部分があいまいかの情報は得られません。教師が説明するのは導入の時と一応答がでた段階で、答をだすために用いた情報を系統的に、鮮明に示すときです。」
※ここではじめから私(C)が授業してみます。この研修後でなければどこをどう工夫しているかはわからない「普通の授業=自然に流れる授業」にみえると思います。生徒のつまずいている点に直行している点に注目してください。答につまったところからです。
C;「日本語に訳して」
B;「ボブとナンシーはりんごが好きです。」
C;「いいね。答はlikeかlikesだね。likesのように動詞にーSがつくのはどういうとき?」
B;「主語が3人称単数の時」
C;「じゃーこの文の主語は?」
B;「ボブとナンシー」
C;「それは何人称?」
B;「・・・・・」
C;「文法のまとめP21をみて思い出してみて。いい?じゃきくよ見ないで答えてね。1人称、2人称、3人称って何のこと?」
B;「1人称はI、We、私、私達、2人称はyouとyouであなた、あなた達、3人称はその他」
C;「いいね。じゃこの文の主語のボブとナンシーは何人称?」
B;「3人称」
C;「単数?複数」
B;「複数」
C;「つまり?」
B;「3人称、複数」
C;「じゃlikeにSをつけるのはつけないの?」
B;「つけない」
C;「じゃ答は?」
B;「like」
C;「いいね。何故likesはダメなの?」
B;「主語が3人称複数だから」
C;「いいよ。動詞の語尾にーS、ーesをつけるのは主語が3人称ということと単数という二つの条件が成立する時だね。どちらか一方の条件が成り立たなくてもーS、esはつけないんだったね。主語のボブとナンシーは3人称にはなっているけれど単数にはなっていないからこの規則はあてはまらないということだね。」
(2)研修目的 「授業を生徒の回路を探りながら質問中心に進めること」
(実況中継) A(新人教師) B(生徒) C(研修指導教師)
注 引き出すべき内容がなくなっている場合はその内容の再構築が当然必要となる。そのなくなっているかどうかも質問のプロセスでわかることになる。
be動詞の使い分け(am、are、is)の導入後の練習問題の場面。質問は単に情報の確認だけが役割ではない、質問によって情報配置を構築することができる。
(問題) Bob and I (am、are、is)junior high school students.
A「じゃ答えて」
B「・・・・・」
A「主語はBohと私で複数だよね。複数の時は何使う?」
C「A先生は生徒がどこでつまずいていると考えてるんですか?生徒は全体の和訳ができないのかもしれません。be動詞の使い分けの規則をほとんど忘れているかもしれませんね。A先生は生徒のつまずきがどこにあるかをさぐりあてて、そこと知を結びつける必要があるわけですね。ところが先生は「are」である根拠を説明しようとしているわけです。先生のペースに生徒をつき合わせようとしているわけです。答がでない場合は和訳から入った方がいいと思います。生徒の情報が最も網羅的に得られ、しかも生徒自身の関心事でもあるわけです。」
A「じゃーもう一度。日本語にしてみて」
B「ボブと私は中学生です」
A「いいね。じゃbe動詞には何がある?」
B「am、are、is」
A「じゃーどういう時にどれを使うの?」
B「Iがam、Youがare、He、Sheがis」
A「複数の時は?」
C「知識の整理の仕方はとても重要ですね。過不足なくしぼりこまれた形で整理すべきで中途半端なものは生徒の理解や暗記を不安定にします。先生自身どのように整理しているのでしょうか?」
A「Iはam、Youはare、3人称単数はis、複数はareです」
C「いいですけどareが2カ所でてきますね。こちらの文法のまとめではI→am Youと複数→are、その他(3人称単数でもOK)→isとなっています。生徒の答では複数がぬけおちているだけでなく、isの場合にHeやSheでは不十分ですよね。覚えるべき規則は教師がしぼりこんだ形で不足なく生徒に提示する必要があります。aboutですむことではありません。じゃー続けて下さい」
A「文法のまとめをみて下さい。もう一度まとめていってみて」
B「I→am、Youと複数→are、その他→is」
A「いいですね」
C「生徒にまとめをみさせる場合はみながら答えさせてはダメです。必ずみないで答えさせて下さい。御自分でもみながら言う場合とみないで言う場合の違いを実感してみて下さい。みないで言えば一回分刷りこまれます。」
A「じゃーみないで言ってみて」
B「(正答)」
A「じゃーこの場合は?」
B「・・・・」
A「Bob and Iは複数だから・・」
C「ちょっと待って下さい。どこでつまずいているか探る作業の放棄になっていますね。理論的に詰めていけばいいわけです。be動詞の種類は何でも決まるんですか?」
B「主語」
C「そうです。主語が決まればbe動詞の種類は決まるわけですから主語が何なのかを確認すればいいんじゃないですか?」
A「主語はどれ」
C「」できる限り生徒にとっても質問内容がどのような位置づけでなされたのか示す必要があります。生徒は何故主語をきいたのですか?」
B「主語のよってbe動詞の種類が決まるから」
C「では生徒にもそのように質問の必然性を示すべきでしょう」
B「主語が何かによって」
A「いいね。じゃこの分の主語は何?」
B「ボブと私」
A「いいね。じゃーどれ選ぶ?」
B「are」
A「いいですね。じゃー次」
C「正答がでたら必ず切り返す。即ちその理由をきくのが原則です。文法問題、特に選択問題はいろいろなヒントや勘であたる場合があります。理由、根拠をきいて更に必要なら教師の法で手短に一つのイメージとして規則を整理して繰り返します」
A「B君、理由は」
B「主語のBob and Iが複数だから」
A「いいね。じゃー~君be動詞の使い分けもう一度言って」
C「いいですね。教師の代わりに言えそうな人を指名するのはいいことですね。わかっている人は退屈している可能性がありますのでこういうまとめの場面で見せ場をつくってあげるのはいいですね」
(3)研修目的 「これだけという極限までのしぼりこみを行って生徒の負担を最小にすること」
(事例)英語における受身の導入場面
A「新人教師」B「生徒」C「研修指導教師」
(実況中継)
新内容を既習内容、経験知とリンクさせる場面
A「今日は受動態(受身)をやるよ。I love her.を受身にするよ。受動態は「~される」の意味で能動態の目的語が主語になり、主語はby以下にいくんだよ。そして動詞部分はbe動詞+過去分詞になるんだよ。じゃー受身をつくってみるよ。I love her.→She is loved by me.…」
C「ちょっと待ってください。新範囲説明でも生徒の中の既知内容(既存回路)と深くリンクさせる必要があります。」
A「でも受動態は、新範囲なので既知内容といっても思いつきませんが」
C「受動態の表現は日本語にもありますよね。日本語でなら既知の範囲で受身の文がつくれますよね。生徒の内にある既存回路は単に既習事項だけでなく、日本語、経験知etcいろいろあるわけです。それらをフルに利用して付加する内容はこれだけというしぼりこみをします。また既存回路との関連が深くなればあらたな授業内容も早く、深く定着することができるわけです。」
A「I love her.を和訳して」
B「私は彼女が好きです」
A「じゃーこれを“~される”という表現に変えてみて」
B「……」
A「C先生、教えるしかないでしょうか?これ以上引き出せるやり方を思いつかないんですけど」
C「受身表現が日本語にあり、日常的にも使っているわけで、潜在的には確実に知っているわけです。日本語レベルでは知っている表現が答えられないのは、既知内容としての「~される」という表現が今やろうとしている受身表現と同じなのだというイメージができていないと考えられます。生徒は『受身』を何か全く新しい概念のように受け取っていると思います。既に知っている「~される」という表現が今やろうとしている受身だという事をていねいに示せばよいのではないですか。まずは日本語で受身をつくってみるといいですね。」
A「B君、受身っていうのは日本語にもあるんだよね。たとえば“私は映画をみた”を映画を主語にして言ってみて」
B「映画は私に(よって)みられた」
A「いいね。その”みられた”という表現、相手によってーされるというのが受身なんだよ」
<同様の受身への日本語での言い方を少し練習して、生徒の知っている“~される”が受身であることを示す>
A「じゃーB君。I love he.の動詞部分
好きです”を受身にするとどうなるの?」
B「好かれる」
A「いいね。じゃ全体の日本語を言って。元の文と同じ意味にならないとダメだよ」
B「私は彼女に好かれる」
A「そううまくいけば私もうれしいんだけどね。元の意味は私が彼女を好きなんだよね。”好かれている”のは誰?」
C「いいもっていき方ですね。既知内容を思いださせて“好かれている”までもっていき、動詞を確定して主語をたどったわけですね。ここまでは付加している内容はゼロですよね」
B「彼女」
A「じゃー全文を日本語でいって」
C「いいですね。ここですぐに英文にいかず日本語の範囲内で、既知の範囲内で受身の日本語をつくれてしまうというイメージをはっきり作るのは重要ですね」
B「彼女は私に好かれている」
(b)新たな知を、既存の関連する知と結び付けて提供する場面
A「英語にして」
B「……」
A「うーん。どうしましょう。文のつくり方をどう導くか又どこでbe動詞+過去分詞という新知識」を入れるかちょっと分かりません。」
C「行き詰まったら問いの中味を部分に分けて既存回路との接続を考えるべきですね。A先生、文はどういう要素からできているんですか?」
A「主語、動詞、目的語、補語、修飾語ですね」
C「特に重要なのは主語、動詞、目的語でしたね。文の構成要素のどの部分が変わるかを示せば、既習内容と結びつくのではないですか。」
A「やってみます。B君この文の主語は?」
C「原則は動詞からきいた方がよいですね。主語は日本語では省略されることも多いですし、主語になる名詞は、いろいろな要素として使われますよね。その点動詞は比較的見つけやすいですし省略されることもありません。動詞をみつければ、動詞の動作をするものが主語ですよね。そして主語、動詞が確定すれば動詞部分をつくるところで新知識を教えるべきでしょう」
A「B君、動詞は?」
B「好かれている」
A「主語は?」
B「彼女は」
A「じゃー英文作るよ。主語は彼女だから」
B「She」
A「~されるという動詞部分はbe動詞+過去分詞を使います。be動詞は主語によっていろいろ変わりますね」
B「She is loved」
A「彼に好かれているということは、彼によって好かれていると考えて『~によって』という前置詞byを使います」
B「She is loved by me」
(c)一応答えが出た段階でその理由根拠を確認する場面
A「すごい。何故meを使ったの?」
B「…. 」
C「正答が出たら喜ぶだけでなく理由、根拠を聞く切り返しが必要でしたね。いいですね」
A「byは前置詞だから前置詞のついた名詞は何格だった?」
B「目的格」
A「はい、その通りです。次の問題は移ります」
C「つまづいた箇所がでてきた場合は、原則としてその問題の答をだすだけでなく、関連する内容を、まとめて全体としてしかも短時間で扱う必要がありますね。この場合、目的格の用法があいまいなわけですから、目的格の用法一般にふれるべきですね。他の格についてもまとめて復習するかは状況次第です。」
A「目的格はどういう時に使うの」
B「前置詞の次」
A「<まとめ>を開いてP、10。思い出した?どう、みないで答えて」
B「目的語の場合と前置詞がついた場合」
A「いいね。じゃー練習問題いくよ」
C「練習問題にいく前に、黒板で他の例文を書いて、今と同様指名しながら2ー3題扱った方が一気にイメージが定着すると思いますね。一気に一定以上のレベルまでもっていくと効率が良いというラインが存在するんでしたね。<当章5条を参照されたい。>」
A「わかりました」
(4)研修目的 「イメージ化(右脳的処理)を授業の柱において生徒への定着度を飛躍的に高めること」
〈実況中継〉
問題 「4割の利益をみこんで定価をつけたが売れないので2割引きで売り120円の利益を得た。原価を求めよ。」
A、新人教師 B、生徒 C、新人研修担当教師 〈 〉はCのコメント
〈 新人教師に表のつくり方は教えてあります 〉
A「じゃ与えられた条件を表にしてみようね。」
A「じゃBさん式を作って」
〈実際は計算は生徒を指して行われているがその部分は省略してあります〉
B「・・・・」
A「利益は売値ー原価だからどうかな?」
C「表のつくり方はいいですね。表は与えられて情報を最もわかりやすく整理する意味があります。しかしこの表がいわゆる暗記の対象として生徒の中の既存回路と別に覚えなければいけないとなると負担が大きく定着効率が悪くなります。この表のようにまとめることがせいとのとっての既存の回路の延長上にあるように提示できるといいですね」
A「うーん」
C「じゃーちょっと交代してみましょうね。B君将来お店開くとしたら何のお店がいい?」
B「お花屋さん」
C「じゃー君お花屋さんになったよ。まず朝起きて何する。お花の種植える?」
B「お花を仕入れる」
C「そのときお金払うね。これが原価だね。1000円にしようか。〈表に書き入れる〉それから家に帰ってどうする?」
B「値段を決める」
C「いくらにする?」
B「1500円」
C「それが何に当たるの」
B「定価」
C「いいね。でもなかなか売れず明日になるとしおれてしまいそうなんでどうしても売りたければどうする?」
B「値段を下げる」
C「1200円」
C「それで売れたよ。じゃーこの1200円何に当たる?」
B「売値」
C「いいね、今中元にいくらある?」
B「1200円」
C「そのうちもうけはいくら?」
B「200円」
C「どうやってだしたの」
B「1200-1000」
C「じゃーそれを原価、定価、利益の言葉を使って表にしてみて」
B「売値ー原価」
C「いいね。この表のつくり方は簡単だね。表に何と何を書くのか忘れたら花屋さんとか、魚屋さんになったつもりで考えてみればいいんだね。時間の経過の順番通りになっているよね。朝仕入れて原価分を使い、家に帰ってきて定価をつけ、売れなければ値下げをして売る、売値で手元にあるお金の一部が利益だね。原価→定価→売値→利益の表を作り、利益=売値ー原価これが覚えるべきことだね。〈ここでしぼりこんでここだけという内容の提示を行った〉じゃー2人づつペアーになってどういう表をつくるか、4つの項目と利益=売値ー原価を言ってもらおうね。ゆっくりと花屋さんになった気持ちで一日を思いうかべながら言って下さい。速くても偉くないよ。速く言っている人はイメージではなく暗記で処理しようとしているんだよ。イメージなら後に残るけど暗記でやってもすぐぬけちゃうよ。じゃーやって。『言え!』」
〈この問題では日常の経験知、常識として安定的に存在する既知情報(花屋さんの生活)を利用した。しかもこの情報は花屋さんという映像イメージをリンクするイメージ情報でもあり、深い定着が期待できる。「利益=売値ー原価」については中味については既に生徒の中に存在する情報の駆使で処理できた。しかし「利益=売値ー原価に注目すべき」という事は生徒にとって付加されるべき新情報である〉
(5)研修目的 「教師ではなく生徒の回路を重視した授業を行い、生徒の回路へ授業内容がかみ合うようにすること」
(事例)適当な関係代名詞を入れよ。(導入は終了している場面。Thatは除かれている。)
I know the boy ( )father is a teacher.
(実況中継)A「新人教師」B「生徒」C「研修指導教師」
A「B君何が入るかわかるかな」
B「……」
A「先行詞のthe boyは人だよね」
C「生徒がどこでつまづいているかの情報を得るにはまず和訳ですよね。わからない単語があるかもしれませんし、関係代名詞の入った文の訳し方がわからなければthe boyが先行詞だということもわかりませんよね。」
A「B君日本語にしてみて」
B「私はお父さんが先生である少年を知っている」
A「いいね。先行詞はどれ」
B「the boy」
A「じゃー何格」
C「つまづいている人を対象とする場合は、部分は部分として決着をつけた方がいいですね。つまりこの場合関係代名詞の種類と格という二つの要素があるわけです。種類については先行詞がthe boyとわかったので決着がつきますよね。種類はwhoというところまで引きだして、じゃー何格使おうかというように到達場面を鮮明な形で確認してから次の段階にいった方がよいと思います。」
A「先行詞がthe boyで人だから関係代名詞の種類は何?」
C「何故“人だから”などと余計なヒントを与えるのですか。生徒は先行詞が何を基準に分類するか忘れているかもしれないじゃないですか。教師は生徒に外側から何かを教える存在という先入観がまだぬけ切らないのかもしれませんね。問答法では教師は生徒から解を引きだす役割です。」
A「つづけます。関係代名詞の種類は?」
B「who」
A「いいね。次は格だね。」
C「生徒自身は関係代名詞は種類と格がポイントであることを忘れているかもしれませんね。そうすると“次は格”だと教え、誘導することになりますね。」
A「格が課題になっていることをどうやって引き出すかちょっと思いつきません」
C「生徒にとって自然に問題意識がそちらに向くようにするには現在の到達段階を鮮明に示せばよいと思います。即ちwhoまでは到達しているわけですからwhoに格変化がありwho whose whomと三種類あってどれを使えばいいかという形で問題設定すればB君にとっても格に関心が向くことが自然だと感じると思いますよ。」
A「じゃーB君whoの格変化を言ってみて。」
B「who whose whom」
A「じゃーどれ使うの?」
B「……」
A「主格、所有格、目的格のどれを使うかはどうやって決まるの?」
C「格の決め方についてA先生自身どうお考えですか?」
A「関係詞以下の文の中での先行詞の役割、格で決定します。」
C「生徒にはそう言って欲しいんですか。少し抽象的ですよね。論理を身につけさせたい時は、生徒にとってわかりやすくシンプルで具体的なおぼえ方にまで加工する(知っている知を授業知へと加工)必要がありますよね。最も簡単に格を決めるには具体的にどうすればよいのでしょう。」
A「二つの文に分けるのでしょうか?」
C「実質上はそういう意味にもなりますが、具体的指示としては“先行詞を関係代名詞以下の文に日本語でいれる”ということだと思います。本来の論理からいっても正しいわけですし又2文を関係詞を使って結びつける時にもそのまま使えますよね。勿論関係詞の次が動詞ならば主格などというその場しのぎの教え方はしません。いわれてみればあたり前のようですが、これまでの研修でもそのようにして格の決定をした先生はほとんどおられないのです。」
A「じゃーB君。格の決定のやり方はどうするの?」
B「先行詞を関係代名詞以下に入れる。<実際は導入時に執ように強調されるので覚えている子もいるわけです>」
A「入れてみて。」
B「少年のお父さんは先生です」
A「“少年の”は何格?」
B「所有格」
A「じゃー関係代名詞は何格?」
B「所有格」
A「つまり?」
B「whose」
A「よし、よくできたね。じゃー次の問題。」
C「ここで先生によるポイントのまとめが必要ですね。誤答の場合どうしても部分に細分化してから全体を構成していくことになります。子供は目先の部分に集中して全体構成が忘れられる場合があります。ですから部分の確認に一定以上のエネルギーを使った場合は、最後に全体像を鮮明に描いて生徒と再確認する必要があります。ここは教師の出番です。生徒のなかに一応描かれた正解へのプロセスについて、そのポイントが何であったのかを意識化(再確認)させることは重要です。」
A「関係代名詞のポイントは二つだけだね。種類と格だね。先行詞が人ならwho、物や動物ならwhichだったね。格は先行詞を関係詞以下に日本語で入れると決まるんだったね。種類は先行詞をみるだけですぐわかるから結局最大のポイントは格を決定するために先行詞を日本語で入れられるかどうかということになるね。」
C「いいですね。じゃー終わります。」
(6)研修目的 「教師ではなく生徒を問題解決主体とする問答法の手法の修得」
(実況中継)
「上図において△ABCの面積を求めよ」
A「新人教師」 B「生徒」 C「研修指導教師」
A「じゃーいくよ。…条件 は確認したよ。条件は全て図の中に書き入れるんだったね。△ABCの面積を出したいんだよね。B君どうする?」
B「……」
A「三角形の面積は底辺×高さ÷2だよね。じゃ底辺と…」
C「ちょっと待ってください。先生がその公式を言った瞬間に生徒がその公式を
覚えているかどうか、忘れているとすれば他の公式との混同か、全く忘れているのか等の情報を探る機会を失うことになりますね。もし他の公式との混同であれば、そのまちがえた方の公式の確認も必要になりますよね。教えると言うことは 生徒の回路の外に解を描くことになる可能性がありますよね。」
A「じゃ三角形の面積の公式は?」
B「底辺×高さ÷2」
A「いいね。じゃー底辺と高さをだそうか。BCはどうやってだす?」
C「底辺はBCとは限りませんよね。サラッとでもいいですからAB、などの斜めの長さをだすのは現在(中2)はできない事、又高さをだすこともできないことを説明する必要があります。」
A「底辺はどこ?高さはどこ?前に来て指で示してごらん。」
B(正解を実行)
A「そうだね。ただ底辺は三つの辺のうち下にあるものという規則があるわけではないので、どこの辺を底辺にしてもいいんだったね。(以下説明省略)じゃー君の指した底辺のBCをだして」
B「・・・」
A「Bの座標はどうやってだす?」
C「先生はB君がどこでつまづいていると考えているんですか?」
A「うーん多分、B,Cの座標のだし方」
C「今の段階では沈黙の原因は確定できないですよね。本当はわかっていて、自信がないから口にしない場合もありますし、BCの長さということとB,Cの座標を求めるということが結びついていない可能性もありますよね。勿論これまで何度もいうように“どこがわからないの?”は特殊なケース以外使わないんでしたよね。BCの長さに注目するところまでは来たわけですから、そのBCをだすには何が必要ですかという形で質問すればよいと思います。現在の立ち位置を明確にするだけで、次の課題がはっきりみえてくる場合があります。その立ち位置を雲をはらって明確に示すことは生徒を外的に誘導することではなく、生徒の自らの歩みをサポートする触媒機能となります。」
A「じゃーB君、底辺のBCをだすには何が必要?」
B「BとCの座標」
A「いいね。じゃーだして」
C「いいんですけど、指示はB点かC点か一つにしぼりこんだ指示が必要ですね。この場合はB,Cどちらでもいいと考えておられると思いますが順序が問題になる場合もありますよね。いずれにしても教師は日常的に質問が多義的にならないように気をつける習慣をつけた方が良いと思います。質問の意味が複数解釈できる時、生徒は内容以前に質問はどちらの意味なんだろうという位置でエネルギーと時間を使うことになります。」
A「じゃーBの座標をだして」
B「……」
A「私からC先生に質問です。この場面でBのy座標がゼロということをこちらから提示する方法以外に思いつかないんですけど、生徒からそれを引きだす方法はありますか?」
C「ありますね。B点の座標がだしにくいのは見かけ上x、y両方の座標がでてないからですよね。x座標又はy座標の一方の数値が与えられていて、もう一方を求める問題は数多くやってきているわけですね。ですからその既知内容と同じだということを示して、生徒の既知の回路との接続をすればいいわけです。ちょっと私がやってみますね。」
C「B君今B座標を出したいんだよね。座標のだし方はこれまでもやっているんだよね。x=1の時yはどうやってだす?」
B「y=x+1のxに1を入れる」
《これができなければ、その子は一定の本格的復習が必要ということになります。現在扱っている文章題は直線の式を求める力のあることを前提にした問題です。一方の値がでている時にもう一方の値が求められないということは、直線の式の求め方ができていないということで、この子にとってこの問題は不適であり、復習を優先するべきであるという判断がつきます》
C「いいね。y=5の時のxの値は?」
B「y=x+1のyに5を入れる」
C「いいね。つまり座標のうち一方が数字がわかっていれば、もう一方も式を利用して求められるんだよね。Bの座標も一方はでていないともう一方はだせないんだよね。 つまりxとyのうち一方はでているはずなんだよね。x,y一方の座標がみえた?」
B「……」
C「じゃーy座標は?」
B「ゼロ」
《ここで答えがでなければ座標イメージの復習ということになる》
C「じゃx座標だして」
B「0=x+1…x=-1」
C「いいね。じゃーBの座標は?<ここで教師が引きとって(-1,0)といってはいけない。>」
B「(ー1,0)」
C「ではB(-1,0),C(3,0)とでたところから再開して下さい」
A「BCの長さはどうなる?」
B「4」
A[ここで底辺は4とでました。]
C「ここは切り返しが絶対必要ですね。つまり正解がでた場合の理由やプロセスをきく作業です。全く同種の問題の場合は3回目,4回目はきかないこともありますが、少なくとも最初の1~2回は切り返しが必要ですね。問題を扱う以上単なる答え合わせでは意味がないわけで、授業内容の定着が目的であるはずです。ですから正答の場合でもそのプロセスや理由が重要なわけです。特に正解の場合、その理由説明をすぐに教師の方でやってしまう場合が多いようです。教師の方で結果が正しければプロセスも正しいにちがいないという思いこみがあるわけです。しかし正答した生徒にとっても、プロセスや理由を説明することで自己の回路を対象化(自分の外にだして自分がながめる)でき刻印が深くなります。特にここでは重要ポイント(長さの出し方)を復習するきっかけづくりのためにもプロセスを問うことが有効ですね。」
A「もどってみます。B君BC=4はどうやってだした?」
B「BとCの座標を使いました」
C「細かいようですけど先程言いましたように発問は生徒の答え方が拡散(いろいろな答え方ができる)しないように言葉を選ぶべきです。今の場合B先生の『どうやってだした?』ではA君のように「B,Cの座標を使いました」のような答も可能なわけです。B先生は“3-(-1)”を確認したいんでしょう?」
A「そうです」
C「ではどうきいたらいいですか。」
A[式を質問します」
C「やってください。」
A「B君、BC=4はどうやってだした?式を言って」
B「右に3、左に1だから長さは4」
A「はい、いいですね。式でいうと3-(-1)=3+1=4ですね。」
C[それはまずいですね。B君の考え方と先生の式は少なくとも別物ですよね。」
A[どちらでもよいのではないかと思うんですが]
C[座標が文字の場合B君の考え方ではうまくいきませんね。符号がわからないわけですから。座標が文字で長さがでていて、方程式にもっていく問題はたくさんありますよね。ですからB君の考え方を認めて、この場合はその考えかたが使えるが、文字の場合は差をとる考え方でないと長さが表せないことを説明して、最終的には適用範囲の広い、差で長さを求める方法を優先させるべきですね。」
<A先生のB君への説明省略>
A[BCは4とでたね。次に何が必要?]
C「教師が高さといわないのはいいですね。底辺がでたから、次は高さに注目するのは当然と考えるのは教師の側の論理で、生徒は底辺などの部分を求めることに意識が集中し、大きな構想、大きな流れを意識できなくなっていることはよくあることです。全体(A)→部分(B)→部分(B)の既知となった全体(A’)→A’の要請する部分(B’)→A”……の流れとなりますから、ここではA’のレベルに生徒を立たせる必要があるわけです」
B「高さ」
A[高さってどこ、前にでてきて書き入れてみて」
B「はい。」
<正解>
A[いいですね。じゃー高さをだすには何がわかればいいの」
B[Aの座標」
A「どうやってだす?」
B「連立方程式をとく」
<以下省略>
以上の流れは次のようになっています。問題設定明示(三角形の面積)
→面積求める公式→公式を使うために必要な要素(底辺,高さ)の確認→要素をだす(座標をだす)。ここではX軸との交点の座標を求めるのに、既習内容と同じ土俵に引き入れて(x,y一つわかればもう一方がでる)既存回路をフルに活用する。
この流れでは教師が新たに付加したものはありません。教師が生徒の回路の内にあるものを顕在化させただけです。A君は最後に「なーんだ。自分だけでもとけたじゃん」とつぶやくわけです。教師はここでは黒子であり、優れた黒子は表舞台に足跡を残さないものです。
小田 清